セントラルガーバナー (Central Governor)
セントラルガーバナーとは、運動中のパフォーマンスや疲労感を、脳が積極的に調整・制限しているという理論を指します。南アフリカのティム・ノークス博士によって提唱され、従来の「疲労は筋肉や心臓の限界から生じる」という考え方とは異なる視点を提供しています。
この理論では、運動時に脳が体内の様々な情報(エネルギー残量、体温、酸素レベル、筋損傷の兆候など)を常にモニターしていると考えます。そして、体が過度なダメージを受けることを防ぎ、生命維持に必要な恒常性(ホメオスタシス)を保つために、意識的または無意識的に運動強度を抑制する「安全装置」のような役割を果たしていると説明されます。
持久系アスリートにとって、この概念は「疲労感や限界は、必ずしも身体の実際の能力の限界ではなく、脳が安全のために発している信号である」という新たな視点をもたらします。これにより、適切なペース配分や効率的なエネルギー補給だけでなく、精神的なアプローチや限界への挑戦が、パフォーマンス向上に繋がる可能性も示唆されています。